以前開催された横浜での「日本自動車技術会」の一コマ。学術的な観点から自動車社会の未来を議論した。その年はトヨタ自動車が世界一の販売台数を記録するなど、明るい話題が総じて日本の自動車業界を明るいものとして映していた。しかし既に足下の日本国内の新車販売は、足踏み状態が続いていた。
燃料電池車といった次世代エネルギーの行方もままならない。ハイブリッドエンジンで日本の方向はこのまま大丈夫なのか。そういった漫然とした不安が自動車業界関係者の脳裏をよぎる。
当時、フォーラムでは、2050年を目標にした社会と自動車との関わりを多面的に考察。その中で日本では人口が2050年には一億人を切るまで減少することや、南海トラフ大震災をはじめ大災害がそこまで迫っていること、そうした環境で自動車がこれまで同様に社会の中核で有り続けることは不可能であると結論づけている。
要は今のままの業界の構造では生き残りは難しいということを端的に表しているのだ。果たして、日本の成長エンジンとして孤軍奮闘している、自動車業界の落日とその後の日本の姿はどう変わるのか。
テスラは自動車業界をリードしていくのか?
米国においてインターネット決済「ペイパル」の成功で得た莫大な資金を元手に、民間宇宙事業の「スペースX」を軌道に乗せたシリコンバレーの成功者。彼が全勢力を傾けるのが電気自動車であり、自動運転。
イーロン・マスク氏が主導するのが「テスラモーターズ」。中国での生産が始まったことで三万五千ドルからというお手頃な価格の「モデル3」の販売が日本でも好調に推移する。
欧米では現在のところプラグインハイブリッド車が主流だが、2008年に初めてのEVモデルを世に出した同社は、会社設立時から内燃機関に頼らない純粋な電気自動車の開発を目指し、アメリカで2003年に設立したベンチャー。
その5年後にはロードスターを発売。次のセダンタイプの「モデルS」を投入しこれが日本をはじめ一気に全世界で注目を浴びたのである。
「モデル3」はほぼベンツCクラスやBMW3シリーズと同等の価格帯、ボディサイズであることから一気にボリュームゾーンの市場に攻めてきた。トラックなどの商用車モデルも計画している。
もはや先進国では自動車はライフスタイルの一部
もう7〜8年前に「モデルS」が初めてリリースされて、高松市にデモとしてやってきたときに申し込んで試乗を体験したことがある。その際の感想は、一言で言うと自動車の「未来」があった。自動車業界人ではない経営者が造ったクルマはこんな感じなのか。これまでの常識にとらわれない発想が随所に感じられたのである。
ラジオやステレオがある場所には、17インチのタッチスクリーンパネルが設置され、ここでほぼ全ての車内の操作を行う。道案内からインターネット接続して仕事のメールの確認まで家やオフィスと大差ない環境。スマートフォンでクルマのドアスイッチ等を操作する感覚はまさに電化製品。
ハンドルがなければ、タブレットでクルマを動かしている感覚。運転を終えボンネットを開けてみた。そこは空間がただ広がるだけ。まるでゴーカートのようだ。
当時のショールームのデザインもアップルストアのデザイナーが担当していたことから、まるでアップル製の新型電気自動車のクルマを品定めするようなことになる。アップルがクルマを出したらこんな感じ?いやすでにテスラが届けた世界感をアップデートしていかなければ、アップルらしくはない。
IT業界と自動車業界は協力を模索しながら互いに「自動運転車」の実現を見据える。DeNAなどでも神奈川県で自動運転の無人タクシーの実証実験をはじめた時期であった。
Google社はアメリカで無人運転の公道走行のテストを行っているが、やはりもらい事故が多く、人工知能がどこまで経験を積み重ね進化出来るのか、他社もまだまだの印象がぬぐえないがそろそろ本格的にリリースをしてきている。日々深化していてもうそこまできている。
移動の不便を解消して暮らしをアップデート
昔、米国のテレビ映画「ナイトライダー」(NHKで再放送中)で見た、ドライバーがクルマのコンピューターと会話しながら、自動車が自由自在に走行する未来の世界までがあと一歩となった。
アップル社も本気になって自動運転車の開発に力を入れそろそろ組立工場の選定をしているとの報道。自社に足りない自動運転等の技術は次々とその分野に明るい内外のベンチャー企業を買収して補っている。携帯音楽市場を覇権したアップル社は、その後満を持してスマホ市場に参入し人気の機種を発売し、あっという間にスマホ市場を席巻した過去を持つだけに、EVが中心となった暁には自動車業界としてもその動向はとても注目する存在だろう。
GoogleカーやSONYカーも続々と生まれてきている。
イーロンマスク氏は学生時代から「インターネット」「惑星間移動」「持続可能エネルギー」を考えたという。現在、その全てでビジネスを大胆に動かして進化させている。フォード自動車から始まった内燃機関の伝統と組立技術でここまで生きてきたガソリンエンジン自動車。今年は各社ともに本格EVモデルを市場に投入してきている。いつまでも狭い業界内でのシェア争いばかりに神経を傾けていると、もっと大事なものを見誤ってしまう危険性がある。
トヨタ自動車も過去最高の株価に裏打ちされた技術レベルを今後はどうやって新時代にフィットしていくか。日本の家電業界の轍は踏まない。その期待を一身に浴びて日本の輝ける明日を築いていって欲しい。「すべての人に移動の自由と楽しさを。」トヨタ自動車はこの合い言葉を実現するべく“モビリティカンパニー”へと生まれ変わるという経営モデルを示している。早くその全貌を私達の前に示して欲しいものである。
『まとめ』
香川県内を眺めると、路線バス網は全盛期から比べると何分の1の規模になっていて、既に県都高松市以外の町ではコミュニティバスが基本となっている。大型店、役場、病院、温泉施設などを経由する循環路線は市民町民の足となっているが、一日に数便で土日はほとんど走っていないなど、あくまで日々の生活を維持するために運行されている。路線からはずれた地域に住む人、観光やビジネスで使うには不便でおのずとマイカーでの通勤やレジャーのために一世帯に複数台数を登録せざるを得ない。コミュニティバスは主に免許返納者か高校生のための路線となる。そこには移動の自由はあまりない。自動運転カーはこんな山間や島嶼部、幹線道路からはずれた地域に住む人にとっては、生活の維持に欠かせないものとなる。電気自動車については脱炭素社会の観点で注目をされている面もあるが、本当にそれが実現できるのかはまだ議論の余地もある。ガソリンスタンドの空白地が増えている中で電気自動車の利点は大きい。特に瀬戸内の島嶼部は小型EVが活躍しそう。ぜひ香川県は“EV先進地”となっていくことで、新時代のライフスタイルを創出するモビリティライフを実現して欲しい。