【かがわコラム】瀬戸内の新たな顔、「あなぶきアリーナ香川」が拓く地域の未来

 

先月の日経新聞に「急増アリーナは乱立か」という提言記事が載っていた。Bリーグのチェアマンや興行を担うプロモーター、そして施設を設置した自治体の代表として香川県の池田知事らが語る「アリーナの価値」についての考察は、非常に興味深いものだった。いま、全国から熱い視線を浴びているのが、開業一周年を迎えた「あなぶきアリーナ香川(香川県立アリーナ)」だ。こけら落とし以降、数々のビッグ興行を成功させて参加者や興行元の満足度を積み上げ、国際的な建築大賞まで受賞するという壮大な「おまけ」まで付いた。

いま、日本は空前のアリーナブームに沸いている。2030年頃までに全国で約30施設が開業し、総収容人数は一気に20万人分も増えるという。かつて「ハコモノ行政」と揶揄された時代が嘘のように、各地の自治体が多額の税金を投入し、最新鋭の施設建設に躍起となっている。

背景にあるのは、Bリーグが推進する「プレミアム化」戦略だ。地域活性化におけるスポーツの役割を各自治体が再認識し始めたためだが、同時に従来型の公営体育館はどこも老朽化が進み、令和のエンタメ空間として使用するには限界があった。体育・健康振興が主目的で観客は館内に足を踏み入れるのに「土足厳禁」が当たり前だった体育館から、見る人サイドに立った演出効果を高めることで、観客を虜にする「興奮の聖地」へ。それが今のスタンダードだ。かつてJリーグの台頭が専用スタジアムへの舵を切らせ、広島や長崎に立派な街中の新スタジアムを誕生させた。それが街の景観とチームの収益構造を劇的に変えたように、今、アリーナが地方都市再生を担う「集客装置」になろうとしている。

「稼働の優等生」としてのポテンシャルと戦略

アリーナは、芝の養生が必要なスタジアム以上に多目的に活用できる「稼働の優等生」だ。なかでも「あなぶきアリーナ香川」のポテンシャルは群を抜く。アーティストから高評価を得る音響性能に加え、メインアリーナの床をコンクリート打ちにしたことで、大型トラックの直接乗り入れが可能となり、設営・撤収の効率を劇的に高めた。

ここで中四国地方の競合を見渡すと、避けて通れないのが「広島グリーンアリーナ」の存在だ。政令指定都市の人口規模を背景に、長年ライブシーンの牙城として君臨してきた。香川のアリーナも同施設を一つのモデルとして計画された節があるが、築30年を超えた広島に対し、香川は最新の興行ニーズに最適化されている。最大の武器は、高松駅や高松港の「目の前」という圧倒的なアクセスだ。終演数分後には電車やフェリーに乗れるスピード感は、入場規制に悩まされる都市部の施設にはない特権である。

至近距離の商店街での推し仲間による「お疲れ様会」は街を潤し、サブアリーナを活用した物販分散は混雑を緩和する。市内に不足する宿泊キャパシティの懸念も、県内交通網を活かせば観音寺や琴平、東かがわまでが心地よい旅の行程となる。四国で最も運行頻度が高く、終電の遅い高松駅だからこそ成せる業だ。事実、2026年度のスケジュール帳はすでに華やかだ。B’zを筆頭にMr.Children、DREAMS COME TRUE、桑田佳祐といった日本を代表するアーティストたちが、続々と「あなぶきアリーナ香川」への上陸を予定している。

今後の四国のライブシーンが当分の間は高松を中心に廻っていくことは自然な流れだろう。他県の計画と比べても、香川の「地の利」と「街との一体感」は際立っている。逆説的に言えば、これほどの好条件が揃わぬ施設は、いくら優れた大きな箱でも単なる「稼げない箱物」に終わるリスクさえ孕んでいる。スポーツアリーナでありながらも最初から集客コンテンツにライブ開催ありきの収益構造では、アーティストの誘致が上手くいかなかった際に代替案がなくなるからだ。

ライブもBリーグも、本質はシビアなコンテンツビジネスだ。人口減少が進む地方にとって、アリーナは交流人口を増やす「切り札」だが、歯車が狂えば失敗しかねない危うさも同居する。市民スポーツへの活用は大前提だが、巨額の建設費に見合うリターンを生み出し続けられるか。競合が乱立する未来で生き残るための「ラストピース」とは何か。その答えは、これからの真の運営力に試されている。(ネットメディア編集長)

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