美味しい醤油に出会いました。この醤油をつくったのは高松市にある広瀬醤油。さまざまな素材を引き立ててくれる名脇役として、筆者の家庭で愛用しています。
おいしさの秘密は、どうやら昔ながらの製法にその答えがありそうです。一体どのように作られているのか、4代目の広瀬善規さんの案内で醤油蔵を見学しました。
かがわ経済レポート2020年9月5日号より再編集してお届けします。
ポコッ・・・プチプチ・・・。
醤油もろみ蔵に耳を澄ますと、かすかに聞こえてくる音。
「蔵に住み着いている酵母によるアルコール発酵の音ですよ」。広瀬醤油の4代目、広瀬善規さんが笑顔で語りかけます。
2013年、ユネスコの無形文化遺産に登録された和食。その味を決める醤油は、微生物の作用により、複雑で奥深い味わいを醸しています。
香川の醤油蔵といえば、まっさきに小豆島を挙げる人が多いでしょうが、高松市の広瀬醤油も忘れてはなりません。明治29年創業以来、120年あまりに渡って先代から伝わる製法を真摯に作り継いでいます。
広瀬醤油の製法は、醤油の原料となる大豆を蒸すところからスタート。
その大豆と小麦・麹菌から醤油のもとになる麹を作り、さらに食塩水と混ぜあわせ45時間かけて醤油麹(こうじ)を作ります。
そして大きな杉桶で1〜2年かけてゆっくり育てます。
ようやくできあがった熟成もろみは、大きな布にうつし、プレス機で3日ほどかけてゆっくりと搾ります。
その後、火入れ(加熱処理)・瓶詰めを施して、ようやく出荷されるのです。
一方、 1169 社ある国内醤油メーカー(※2018年時点、しょうゆ情報センター調べ)の多くが、協同組合で造った生醤油を買い、自社工場で火入れ・味付けをして効率よく製品化しているといいます。
「つまり、自社のもろみを持っていないわけです」。
その理由を広瀬さんは「高齢化が進む醤油メーカーや蔵は、担い手不足や機械の老朽化などの問題があります。もろみ作りを継続したくとも出来ないのです」と話します。
先代から蔵を継いだ30年前、広瀬さんも同じジレンマを抱えていました。
しかし、一度でも伝統製法を廃止すると復活は難しいもの。醤油づくりを支えてくれるスタッフが減り、伝統的な技術を忘れ、工場が朽ちてしまう… そんな姿をイメージした時にこう決心を固めました。
「先代のモノマネでもいいからやってみよう!」
醤油作りと誠実に向き合うため、一から勉強をし直した広瀬さん。試行錯誤を繰り返し、徐々に良い醤油が作れるようになっていきました。金銭的にも苦労しましたが、いまさら後退はできないと踏ん張ってました。
そして現在、自信をもって日々の醤油作りに取り組んでいます。
「もろみ蔵を今でも持っているから、色々な方が定期的に工場見学にきてくれるんですよ」とにっこり。
広瀬醤油では讃岐の郷土料理にしっくりと馴染む甘口醤油や、無添加・本醸造醤油を提供。
醤油の製法は一徹ですが、商品展開は柔軟です。看板醤油の「百年の味」をはじめ、だし醤油、めんつゆ、うどんだしなど、消費者の声に寄り添う商品を多彩に展開してきました。
筆者のまわりでは「ポン酢」もおいしいと評判です。
パッケージデザインは広瀬さんご自身で考えています。
「今後の目標ですか? 早く代替わりがしたいですね」。現在、ご子息の寿久さんが醤油蔵を手伝っています。5代目誕生の日もそう遠くなさそうです。