「スマート農業の次なる一手」を老舗企業に訊く ㈱喜多猿八

高齢化や担い手不足、食のサスティナブル―

なにかと課題の多い日本の農業分野に、ICTやロボット技術を活かした「スマート農業」の波が押し寄せています。その国内市場は2020年、前年度比145%の262億円規模に達しました(矢野経済研究所調べ)。

創業120年を迎えた老舗企業で、農業専門商社の㈱喜多猿八(きたえんぱち 香川県木田郡三木町)は「日本一の農業支援集団になる」という理念を掲げ、農薬販売のみならず、ドローンによるスマート農業化支援や農業経営を支える事業を展開。昨年は農業用ドローン教習所を開設しました。

次の100年に向けて、どのような一歩を踏み出すのでしょうか?代表取締役 喜多泰博氏に、スマート農業の次なる一手について伺いました。

※「かがわ経済レポート」2021年11月05日号のトップインタビュー記事を再編集し、お届けします。

喜多泰博(きた やすひろ)社長  名古屋工業大学大学院修了。セイコーエプソン㈱にて半導体の営業技術職、専門商社㈱マクニカで半導体やソフトウェア製品の事業開発やマーケティング業務を担当。2012年に㈱喜多猿八入社、2014年、4代目社長に就任。「香川胆識の会」(元・盛和塾香川)で京セラ㈱創業者である稲盛和夫氏の経営哲学を学び、経営に生かしている。

変革と進化の120年

当社は農業専門商社として、農薬・肥料などの農業用生産資材の販売を中心に、害虫駆除などの環境衛生事業、そしてスマート農業に向けた農業用ドローン事業などに力を入れています。

ドローンを操作する喜多社長

さまざまな時代の変遷や社会問題に向き合ってきた120年の歩みは、まさに変革と進化の連続でした。

1900年、喜多猿八が創業した当時は漢方薬の販売を手掛けていました。その後、農薬の黎明期である大正時代初期より農薬事業へ参入。1964年から農業一本に事業分野を絞り、1968年には、ネズミ・ダニなどの害虫・害獣対策のニーズの高まりを捉え、環境衛生事業に乗り出しています。

香川県で発生した高病原性鳥インフルエンザの消毒も行いました。

いま農業は大きく変化しています。ただのモノ売りではなく、自分たちのあるべき姿を変えていくことが必要。絶え間なくお客様のニーズを汲み、変化し続けてきた先代の精神を継承することが、一番大切だと感じています。

最近ではコロナの影響もあり、訪問営業一辺倒だった営業体制の見直しを行っています。当社の情報誌「えんぱちアグリ通信」を毎月紙媒体とLINE経由でお客様にお届けするほか、当社のYoutubeチャンネルを開設し、定期的に情報配信しています。

ドローンが農業を変えていく

私は2014年に事業を承継しました。先代に習い、時代のニーズに合わせた新事業の開発に邁進。その一つが2017年に始めたドローンによる薬剤散布です。

右が喜多社長

農業の現場では高齢化や担い手不足が課題となっており、省力化につながるドローンへの関心が高まっています。これまでも無人ヘリで行う農薬散布はありましたが、住宅地と農地が近い香川県では普及が進んでいませんでした。

今年は延べ627haのドローン散布を請け負いました。初年度に比べ約6倍。今後ドローンで使用出来る農薬も大きく増える見込みです。ドローンの活用場面はどんどん増えていくと捉えています。

次なる一手

スマート農業の担い手育成のため、2020年に農業用ドローン教習所を開設。ドローン飛行に必要な技術やルールを指導し、現場で即戦力となるオペレーターの育成に取り組んでいます。

農薬管理指導士、農薬安全コンサルタントなどの資格を持ち、ドローン防除を実践しているインストラクターが教習にあたりますので、購入後の実用場面でのアフターフォローも万全です。

現在は4機の農業用ドローンを保有。10月より発売となった最新機種「Agras Tー10・Tー30」が加わり、教習・販売・整備を強化しています。

さらに年内から、世界初の量産型農業用無人車「XAG R150」の販売も開始。GPSよりも高精度で位置情報を測定できる「RTK」を用いた自動制御で、農薬散布などの作業を無人化・自動化でき、大きく生産性の向上に貢献します。

世界初の量産型農業用無人車「XAG R150」

また、農業用ドローンの活用場面を広げる取り組みも行っています。当社ではこの夏、遮光剤をイチゴハウスにドローン散布する取り組みを行いました。農業用ハウスや畜舎の屋根に上り、高温対策用の石灰を撒く生産者もいますが、危険な作業です。農業者がもっと安全に農作業出来るようドローン活用の場面を増やしていきたいと考えています。

サスティナブル社会へ

食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる「GAP認証」を取得したい生産者に向けて、コンサルティングを始めました。

東京2020オリ・パラにおいて食材調達基準に採用されたことなどから、国内でも関心が高まっているGAPに取り組むことで、サスティナブルな農産物の供給の実現が期待されています。

また、将来にわたって良い社会と地球環境を守るため、化学農薬だけに頼らない総合的な提案も行っています。イチゴを加害するハダニを食べる”肉食ダニ”などの「天敵農薬」を普及販売するなど、総合的な病害虫管理にも注力。

最近では、農業を支える新しい技術「バイオスティミュラント資材」の普及に力を入れています。農薬でも、肥料でも、土壌改良材でもない。それでいて植物の能力と農作物の価値を高める資材です。人で例えるならサプリメントのような役割です。

日本の農業を未来につなぐ

当社のビジョンは「日本一の農業経営支援集団になる」です。これは大きな夢かもしれませんが、長年に渡り農業に寄り添ってきた私たちだからこそ、できることがあると考えています。

昨今は無人トラクター、ドローン、AIなどを活用した研究開発が盛んになっています。こうしたスマート農業を取り入れた効率的な農業生産のほか、GAP取得支援や青果物のマーケティングなど総合的に農業経営をサポートできる集団となることが、私たちが目指す次のステージです。大きく変わる日本の農業がより輝ける、魅力的な業種となるよう全力を注ぎます。

日本の農業を未来につなぐ。積極的に農業を変えていく。そんな存在を目指して今後も努力していきます。

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