【あなたは知っていますか?】葬祭業の現場で何が起きているのか

 「家族葬◯万円から」。

 広告、チラシ、看板等で目にする格安プランは、突然悲しみの中に陥った遺族にとって心強い言葉に映る。ところが実際には、葬儀後に届く請求書が当初の見積もりを大きく上回り、トラブルに発展するケースが全国で相次いでいる。

 近年、新興勢力や異業種から参入が続く葬儀業界、香川県内でもその動きがある。

 葬儀は地域にしっかりした会館を構え、地元密着で運営する老舗葬儀社が担うのが普通だったが、近年は人口減少や葬儀の小規模・簡素化を背景に異業種からの参入が急増。競争が過熱するなか、業者は消費者感情を手っ取り早く惹きつける「最低価格」を打ち出し、顧客獲得合戦に乗り出す。

 結果として、広告の金額や見積書と実際の請求額との乖離が広がり、トラブルが表面化。

宗教的なことに余計な口出しをすることは不謹慎という風潮があるなか、それを逆手に取り「遺族の弱みに付け込む」ごく一部業者の存在は、誠実に運営してきた地方の葬儀業界全体のイメージダウンにもなりかねない。

 葬儀業も経営であり、事業計画で掲げた業績目標を目指して当然だが、利用者を欺く手法はフェアではない。

 究極のサービス業であるべき葬儀の現場で何が起こっているのか。国民生活センターによると、2024年度の葬儀サービスに関する相談件数は978件で過去最多となった。「広告で見た金額と実際の請求が違う」、「不要なオプションを押し付けられた」という相談が多かったようだ。

 葬儀は突然のため、冷静に比較検討する時間的余地はなく、半ば言いなりで契約してしまう。病院から会館に移動する寝台車の車中で、まくし立てるようにプランの説明を受けたという話も聞く。

 打合せで「家族葬で安くしたい」と希望を伝えても、祭壇のグレードアップ、供花や霊柩車のランク変更などが次々と加わり、最終的に高額になったというケースも珍しくない。ある遺族は、打合せ時に葬儀社の担当から「故人はお風呂好きでしたか」と聞かれ、「毎日入浴していた」と返答。すると、告別式までの3日間、葬儀社担当が毎日ご遺体の身体を清める湯灌をしてくれたという。ここまでなら「よく面倒を見てくれた担当者に感謝」で終わる美談だが、1回あたり10万円程度のオプション請求が加算されていた事実を知ったとき、当事者ならどう感じるでしょう。

地域に根ざした葬儀社は信用を大事にするが、ごく一部の悪質業者に信頼関係を築き長い付き合いをする考えはなく、一度っきりの収益さえ確保すればよいのだ。文句の一つ言われたところで、入金さえしてくれれば気にならない。

「目先の金額に釣られ、安いと思って頼んだが、結局高くついた。大切な家族のお別れなのに後味が悪い」と悔やむ前に、表記価格に含まれる内訳の説明を受ける、見積価格は項目ごとにチェックするほか利用者側の対策も必要。また、家族が元気なうちに葬儀についての取り決めをしておく、事前に葬儀社の相談会を訪ねたり、相見積もりをしてみるなど準備をしておくことも大事だろう。万一の際、寝台車の手配を済ませてからの業者変更は、現実的になかなかし難いものだ。

悲しみは突然やってくる。葬儀社の良し悪しを見抜けず、準備を怠ると、悲しみに追い打ちを掛けることを忘れずに。

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