業界の先駆的存在でもあったスルガ銀行事件がもたらした教訓、稼ぐ柱を無くした地方銀行の末路  《かがわコラム》

 地方に住んでいるとピンと来ないことに、都会に住む人の生活スタイルの変化が挙げられる。そのひとつが驚くほど“シェア”という概念が個人間に浸透してきているということではないだろうか。
そしてちまたには“衣・食・住”という生活の基本全てにおいて、このシェアの考え方を取り入れた新ビジネスが登場している。

物質的に満たされた日本人、収入増が見込まれない環境で進む生涯賃金の二極化。

 片や持続可能性を考えるとやはりリサイクルやシェアという概念に、私達の暮らしが大きな可能性を感じざるを得ない状況にある。特に現代の若者、具体的にはZ世代のモノに対する所有欲は考えられないほど後退していき、スマホの機能性とアプリ開発の浸透と相まって、一方で所有する人と所有はしたくないけど使用はしたい人を簡単に結び付ける技術の進歩が後押しする。

四十代以上ではあまり考えられなかった“住の部分”においても、人口が集中する大都市圏の家賃が一向に下がらないことへ対抗手段となっている。敷金や礼金いらずで格安に住める「シェアハウス」に好んで住む人が2010年代にことのほか増えてきていることもその一例であろう。

ライフスタイルの変化等で、都会での独身寮の需要が少なくなり、大企業は続々、福利厚生施設のリストラを図るために、こうした建物を売却したりリニューアルするケースが増えたことで都会ならではのオシャレなシェアハウスが誕生したと記憶する。

 

女性用のシェアハウスのオーナーになる会社員をターゲットに見出した

 それがいつの間にか土地活用の賃貸アパート経営みたく、一般の会社員によるシェアハウス経営を将来のための資産活用として、試みる人が増えていたというのは知らなかった。既存の土地建物を有効に使うのと違い、全くの新築物件を最初から“シェアハウス専用仕様”で建てられることが出来るのは一見すると、新築のシェアハウスをうたい文句にすることで多少家賃が高くても居住者を集められると思ったのだろうか。

何よりも賃料の安さがシェアハウスの魅力のはず。その次に駅近や都心立地といった利便性の良さを物件に求める。郊外の駅からまだ遠いような二等立地の物件ではいくら新築でも当然、入居希望者の希望優先順位は後回しになってしまう。

当時、相次いで経営破綻した「かぼちゃの馬車」を運営していたスマートデイズ社、ゴールデンゲイン社。一連の問題の根源となっていたのはなぜ普通の会社員に対して、億単位の融資がいとも簡単に出来たのかということである。

個人融資に特化したビジネスモデルでひとり気を吐いていた地方銀行

そこには静岡県に本拠を置くスルガ銀行が間に入っていた。だが増やしてきた融資が一転して、それまでの融資姿勢を転換することで、「極力絞られ融資が通らなくなったため業界環境が激変」した(ゴールデンゲイン社)。そのほとんどの融資はスルガ銀行でも一部の支店が担当していた。

このビジネスモデル、実は問題が発覚する前は金融庁もその動向に注力し、地銀のモデルケースと持てはやしていたほど。都会ではシェアハウス、地方は中古マンションの一棟売りで、融資に際し書類の改ざん等の問題が起きているとも伝えられる。

大規模に噴出してくる「マグマ」の一端が地表に吹き出してきただけだったのか。逆ざや傾向の金利では銀行経営は難しい、そこで次第にスルガ銀行に触発されていき、サブリース保証を売り文句にするビジネスモデルが浸透し始めた。

結局、スルガ銀行の改竄等で5500億円を超える金額が債権額として算定されているが、そのうちサブリース関連はあれだけ話題になたのだがそんなに多くない。様々な融資案件にこの手法が活用されていたということ。だが問題の本質となったのはあくまでもこうしたスキームを構築し、そこに群がった多くの販売会社や仲介、建設業者など。全体をしっかり見ないと再発の防止は出来ない。

 

厳しい融資の競争環境が産んだあだ花

渦中となっていたスルガ銀行静岡県沼津市に本店があり、地元の静岡県にはすでに壁のように地方銀行の雄として知られる静岡銀行があることから、法人融資には大苦戦していた。シェアアップを図るためにいち早く取り入れたのがリテール部門である。CM戦略などユニークな手法で強化を図っていた。

またまだどこも手を出していなかったネットバンキングにもいち早く取組み、全日空のマイルサービスとのコラボカードを発行した時は、一地銀の枠を超えた先進的な優れた印象も与えていた。
静岡県でも最も東側の沼津という地の利や歴史的な経緯から、隣接の神奈川県でのシェアがもともと高く、地銀ナンバーワンの横浜銀行と向こうを張った営業活動に専念していて、営業店も神奈川県内に数多い。

東京ミッドタウンが六本木に誕生した際には「d-labo」(夢研究所)と呼ばれる個別相談ブースを作って、銀行利用客でなくても、併設のライブラリーを利用出来たり、各種セミナーを開催したりする新しいスタイルは、それまでの地方銀行のイメージを完全に覆し全く先進的な空中店舗のモデルを設置しており当時は話題になった。

 

漂流するスルガ銀行、弱肉強食が進む地銀業界、スタートアップとの事業連携

かく言う筆者も以前に静岡市に住んだ折、公共料金の引き落としに地元銀行の口座が必要となり、実はスルガ銀行に一時公共料金の引き落としの口座を持っていたことがある。一番近くにあった支店であったからだが、そのときの印象を思い起こすとガラス張りのオシャレな支店内に、地元の産業、企業の製品が所狭しと展示されたブースが、地域産業の支援に力を入れるイメージを演出していた。それまでにはない地域密着の姿勢を来店客に示している地銀支店の設えに感心した覚えがある。

そうした先進的なイメージを長年掛けて創ってきたのに今回の一件により地に落ちてしまった。地銀各行はマイナス金利政策による利ざや稼ぎ先や、地方経済の後退による法人融資の減少、そもそもの営業地域の人口減少の拡大という地方に本拠を置くことのリスクに直面してもがいている。よほどの知恵を使っていかないと、この先じり貧になることは目に見えている。

地方銀行の中では“優等生”とされてきたスルガ銀行が、実は倫理観に欠けたその場しのぎの融資を行っていたのなら、その責任は大きいと言わざるを得ない。今や地銀業界ではスタートアップのフィンテック企業との事業提携が盛んに行われ、競争は異次元の過酷さを増す。地元の融資先の開拓と新サービスによる手数料収入、MBAなど多額の手数料につながるビジネス等への進出に余念がない。

 

ガバナンスの一層の推進をどう進めるか、決して他人事ではない

現在、スルガ銀行は事件後に、提携関係を結んでいた家電販売のノジマとの関係が進まずに今年には解消。今後は新たな提携先を探すことになるが、もともと同業他社の地銀からは見放されてしまい、そこをフィンテックを通じた事業構築に可能性を感じた流通業者という金融とは異業種のノジマに拾われた。しかし畑違いの企業であったことや、スルガの経営陣との方向性の一致がみられず、その中でも柱のリテール融資先が減少していて、融資額の大幅減少が続く中で、稼ぎ先を是正していく必要があるが、別の稼ぎ先の目途がすぐに見つかる訳ではない。

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