群馬県の県庁所在地は?と言えば前橋市。という回答を得るには少し時間が掛かるかもしれない。それは上越新幹線に乗るとよくわかる。高崎駅に停まり、駅前に出ると都会の印象で県庁所在地に相応しいと感じるからだ。だが本来の所在地である前橋市に行こうとすれば、そこからJR上越線に乗り換える必要がある。15分程度で前橋に着くのだが、高崎市とは異なるローカル線の駅風情はどこか牧歌的に感じた。
実際に以前前橋市に行ったことがあるが、高いビルもなく県庁所在地というよりもどこかの一地方都市といった低層の町並みに唯一がそびえる。
そんな町に県庁所在地として、なんと言っても33階建ての群馬県庁が目につく。周りに高い建物が全然無い関東平野の北部が一望出来る様は、まるで関東の大名のお城のごとく、そこにお殿様がいて城下に広がる平野を見渡しているイメージ、下からはどこからでも目印に出来るほどの偉容だ。
その前橋市にユニークな宿泊施設が誕生した。
廃業した老舗の旅館を有名な建築家の手でリノベーション。それを手がけるのは同市が出身の一人の経営者。
眼鏡販売の最大手のジェイアイエヌ社長の田中仁氏その人。ショッピングセンターでよく見かけるあの「JINS」を展開する。
今回は氏が運営する財団がこの旅館を買収し、まちづくりに貢献出来るような施設にするという。
前橋市は新幹線停車駅という経済圏から距離を置いたことで、発展が進まずにそれが逆に昔ながらのレトロ街が広がるという状況になっていた。
そんな小規模のホテルひとつできた位で街が変わるモノかとも思う、だからこそ街の真ん中に出来るデザイン空間に国内外の有名なクリエーターが集結した意味が出てくる。
それが「SHIROIYA HOTEL」なのだ。
眼鏡店「ジンズ」で店舗設計を共にコラボしてきた藤本壮介氏が設計。金沢21世紀美術館で一番人気の「スイミングプール」で有名な芸術家のレアンドロ・エルリッヒ氏 がロビー空間を担当。
やはり眼鏡デザインでコラボする英国のデザイナー・ジャスパー・モリソン氏が世界で唯一であろう客室設計(一部屋のみ)を手がける。またイタリアの建築家ミケーレ・デ・ルッキ氏も特別客室の内装を手がけるという。
自社の発展とともに築きあげた人脈を、最大限に生まれ故郷の活性化に寄与する。客室数がわずか25部屋から生まれる地域の変化の波に今、注目をせざるを得ない。
高松市の対岸にある岡山市でも、現在、「岡山芸術交流」が瀬戸芸開催年に合わせて開催されている。アートに造詣の深いストライプインターナショナルの創業者である、石川康晴氏が総合プロデューサーとして、地域の産官を巻き込み三年に1度開催する岡山市内を会場にした都市型の芸術祭だ。
瀬戸芸の会場とも船便の運航が行われ、瀬戸芸を見学して岡山に向かう人も増えているようだ。現代アートを媒介に都市型の祭典がコラボした。すでに世界から有名なアーティストが参加している国際芸術祭に成長した。
石川氏は以前から起業家育成にも情熱を傾けていて、自身の出身大学である岡山大学と連携。
こうした最近の起業家の特徴の1つに地元愛が半端なく強い方が多く輩出されている。都会に出て起業するのではなく、あくまで生まれ育った地元の活性化のために地元に育てられた自分が、果たして何が出来るかを自問自答。事業成功して財を成したことを積極的に地元貢献するとの観点が本人達には何よりも上にくる新人類達。
瀬戸芸の総合プロデューサーの福武財団の福武總一郎氏も自分の跡を継ぐのは彼しかいないのではといったようなことを洩らしていたと聞いたことがある。
ストライプインターナショナルも特徴的な店舗に合わせて、渋谷などにホテルを展開している。若手経営者にとって、ホテルを持つというのは夢のひとつである。
彼は約10年間にわたって岡山から人材を発掘していくイベントの「岡山アワード」も発起人として開催に尽力してきた。これも田中氏と重なる点だ。地元のよさも欠点も知り尽くしているからこそ、地元のニーズにうまくフィットしたビジネスモデルを創り出すことが可能なのかもしれない。残念ながら石川氏に関しては自分から不祥事で財界の第1線を退くという岡山市にとっては残念至極な経緯をたどった。
前述したジェイアイエヌの田中社長は「群馬イノベーションアワード」として、新事業創出プランの発表の場を設け、起業意欲の強い地元の社会人や学生達の成長と夢の実現の後押しを続けている。
地方ではとかく出る杭は打たれやすいと言われる。若い人により近い年齢層の企業家達が積極的にそうした若い人を引き上げるべく動けば、地域のに埋もれた人材発掘にも、UIターンによる有能な人材の吸収にも、好循環となるロールモデルと言えよう。
香川県でも誰かこんなアイデアを先導してくれる若手経営者を求む!